私――流し雛の化身である鍵山雛は、人間の厄祓いで祓われた厄を集めては溜め込んでいる。 その影響で私の近くでは、人間はおろか妖怪ですら不幸にあう。 ぼんぼりに灯を入るるとて―― 会ったこともない人間のために厄を集めて、話したこともない人間のために厄を監視する。 人間は、よもや私が厄を集めているとは露知らず、労いはおろか認識すらすることはない。 電灯殊更 消すもよし―― はじめは別にそれでも良いと思った。 誰にも近づけない代わりに誰かを不快にさせたり傷つけたり、悲しませることはないのだから。 瓔珞ゆれて きらめきて―― しかし、その考えは妖怪の山に乗り込んできた二人の人間と出会ったことで一変した。 人間というものにはじめて興味を持ち、色々と知りたいと思った。 物語めく 雛祭の宵―― 慧音は言った。 「あなたは…ひな祭りの由来を知ってるだろうか?」 紫は言った。 「あなたが人間と厄以外の縁を持とうとしていること、無駄なことだから止めておきなさい」 おねえちゃん。 私も、お姉ちゃんのことを忘れない。 お姉ちゃんに言ったことだって絶対に忘れないから―― このおはなしは 人間のことを知りたいと思った神様が ほんの少しだけわがままをしてみようとした ただ、それだけのおはなし。 私は、一人ぼっちじゃなかった。 あかれんがpresents 「縁(えん)」 11/2 東方紅楼夢(第四回) 京都市勧業館みやこめっせ 第3展示場・第1展示場 花-33bにて配布